贈り物
「でさあ、泣いちまってよお」
「ふーん。でもなんで、そんな事知ってるの?」
昼休み。校舎はずれで仲良く話す二人ー速水厚志と田代香織ー。
軽い機体のチェックを終え、戻ってきた芝村舞の胸はちくりと痛んだ。
話の輪に入るとか、すたすたと横切って、教室に向かうとかすればいいのだが。
不器用な舞にはどれも出来ず、ただその場に立ち尽くすだけだった。
そんな舞に気が付いて、ひょうひょうと近づいてきたのは、愛の伝道師こと、瀬戸口隆之。
寂しそうな背中を見て、おもむろに両手を廻す。
「!!な?ななな?」急に後ろから抱きつかれた舞はパニックに陥る。
「ひーめーさん♪何見てんの?うん?あの二人?」
舞の視線の先にいた、速水と田代に気が付き、ほおおと感心したように言う。
「仲良いよな、あの二人。」
…そうか、瀬戸口から見ても仲良く映るのだな。
その大きな両手から逃れるのも忘れ、舞は思わず、うつむく。
「なあ、それより姫さん明日暇か?」
手がはずされないのをいいことに、ぎゅうっと抱きしめたまま、瀬戸口は舞の耳元でささやいた。
「そ、そんな事より、手を離せ!!」
ここにいたって真っ赤になった顔で、抵抗を試みる。ほどけない。優男なのに、こんなに力が強いとは。
「あいつら仲良いよな」
舞と瀬戸口のやり取りに気付いて、眺めていた、速水と田代。
「…うん。お似合い…かもね」
そんな事を話していた時、瀬戸口は舞の頬に軽く口付けた。
「うひゃーよくやるぜ!」顔を赤らめる田代。
「!!みんな!聞いてくれ!」
突然大きな声を出す速水。その場にいた4人は、いっせいに速水のほうに振り返った。
舞は瀬戸口にキスされた事と、それを速水に見られていた事で
更にパニック状態に陥り、瀬戸口に抱きつかれたまま固まっている。
「日曜日、みんなで遊びに行かないか?」
やれやれ。せっかくデートに誘ってたとこだったんだが。坊やに邪魔されたか。
「あー俺、3時までならいいぜ」
香織は予定があるらしく、それでも律儀に応え、腕を組んだままうなずいた。
「瀬戸口君は?」振り返る速水。
「よしわかった。付き合うぜ」苦笑しながら応える。
舞はしばらく固まったまま、言葉を発する事も出来ず。それを見て、近づいてきた速水は瀬戸口に言う。
「芝村、困ってるみたいだから、離してあげなよ」
「あ、ああ」
言葉は柔らかいが目が笑っていない。そんな速水のちょっとした違いに気付く者は、少ない。
「ま…芝村、芝村は?どうする?」
ようやく解放され、速水の言葉に我に返る舞。
「あ、ああ、いいだろう。」大きく息を吐きながら、小さく応えた。
ほっ。安堵の溜め息が速水と瀬戸口の口から漏れる。
同じく近づいてきた、香織は、舞を見て苦笑する。
「おめえ、大丈夫かよ?」
「す、すまぬ、大丈夫だ。ととところで何処に行くのだ?」
4人顔を見合わせて、ふむと考え込む。
「プールとか」これは瀬戸口。
「却っ下だ!」と舞
「やだね」と香織。ほぼ同時に発せられる否定形。
「ねえ、文化祭はどう?」速水がぽんと手を叩いた。
「そういや明日、尚敬高校の文化祭か!いんじゃないか?姫さんいったことあるか?」
「いや、ない。」
「田代さんは?」
「俺はあるぜ、でもいーんじゃねーの。俺途中で抜けるのにも楽だし」
「じゃ校門前9時ね」
ハンガー二階右側。速水はとなりで熱心に仕事をする、舞の横顔を見つめた。
僕ももう少し積極的に行かないと駄目なのかな。それとも、もう遅いのかな。
出会ったのは3月の事。すぐに好きになった。でも休戦期になるまで
戦闘に次ぐ戦闘で。告白する暇もなくて。なんとなくそばにいて、楽しかったから、
それで満足してたはずなんだけど。ライバルが増えるに連れ、自信はなくなってくるし。
最大のライバルはよりによって、愛の伝道師だし。実は待っていた。気付いてくれるのを。ずっと。
サインは送り続けてたつもりだったんだけど。届いてなかったようで。
見つめ続けてもこの視線の意味は伝わらないものなのかな。
不意に舞がこちらを向いた。
「何だ、私の顔に何かついてるのか?」
見られてる事には気付いてもらえるんだけどなあ。
「うん、なんにもついてないよ。」
瀬戸口にキスされた頬を眺め、胸が痛くなる。
「あの芝村…さん、さあ…」
「なんだ?」
瀬戸口の事、すきなの?と聞こうとして止まる。聞いてどうするのさ。
「ごめん、なんでもない。明日、楽しみだね」
舞はその一言だけで、頬を赤く染めあげた。
昼間の一件を思い出してうつむいてしまう。うう、あんな所を速水に見られてしまった。
私は、私の…一生の不覚だっ!
「顔赤いよ?熱あるんじゃない?」傍によって舞の顔を覗き込む。
その額にさりげなく、手を当ててみる。これもひとつの意思表示なんだけど。
ぶわぁっ。
見る見るうちに首筋まで赤く染まっていき、舞の体温は確実に上昇した。
「うん熱いね。今日はもう帰ったほうがいいよ。」
「そ、そそそ、」そなたが気安く触るからだと!怒鳴りそうになる。
が、実際口はつぐんだまま、慌てて速水の手から逃れる。
こ、この小隊の奴らはおかしい、スキンシップをはかりたがる者ばかりだ!
なぜ芝村である私に平気で接触してくるのだ?
いつの間にか、壬生屋も、滝川も帰り、二人きりのハンガー。
大して気にしたそぶりも見せず、速水は微笑んで見せた。
「送ってくよ?倒れちゃったら大変だし、明日来られないと寂しいから」
小さな言葉に大きな意味を乗せて。それでもこの少女には届かない。
「いいいいや、ひひひとりで帰れる。で、ではな、速水。また明日」
たーっ。脱兎のごとく舞は逃げ去っていく。
一人取り残された速水は、小さく溜め息をつき。自分もハンガーを降りていった。
きらわれてるのかなあ。
快晴。幻獣も昼寝しそうな天気の中、尚敬高校文化祭は開催された。
女子高の文化祭というだけあって、大賑わいだ。他校の男子も大勢来ている。
その中でも目をひくのか、速水と、瀬戸口は女の子達に囲まれがちだった。
それを少し離れた場所で、あきれたように見守る舞と香織。
「もてもてだな」
「フン」
「お前も苦労するよな?あんな女ったらしじゃ」
瀬戸口の方に親指を向けて、香織がつぶやいた。
「?なんのことだ?」
「えっ?お前ら、つきあ」ってるんじゃねえの?と言おうとした時、速水と瀬戸口が女の子の輪から抜け出してきた。
「いやあ、最近のお嬢さんたちは積極的で困るね」
ちっとも困ってなさそうに笑い、舞の方へ手を差し伸べる。
「…何の真似だ?」
「はぐれちゃ困るからね、手を繋ごうかと思ってうぐっ!」
思い切り足を踏まれる。ちなみに右足を踏んだのは舞で、左足を踏んだのは、速水だった。
「香織、行くぞ、案内してくれ」
舞は香織の手をとると歩き出した。香織は何で俺がと思いつつも、舞の手にひかれ歩き出す。
牽制しあう速水と瀬戸口に気付こうはずもない。
「おい、いいのかよ」
「だから何がだ?あの男、芝村を馬鹿にしてるとしか思えん。」
「君が余計な事するから、ほら見失っちゃうよ。もうせっかくみんなできたのに」
小走りに二人を追いかけ出す、速水。肩をすくめ、その後を追いかける。
校門から玄関にかけていろいろな露店が並ぶ。味のれんの親父まで出店している。
ものめずらしそうに舞はきょろきょろしている。
「ああいう姫さん見てると、やっぱり、普通の女の子だなと思うよ。」
くっくっと笑いながら、瀬戸口は舞を見つめる。
「うん、かわいいよね」
後ろから、女の子二人を見守りながら、速水もうなずく。
「香織、あれは何だ」
洋服のすそを引っ張られ、ギョッとして振り向く。
子供が持っている、赤くて丸い割り箸にささってるものを指差す。
「ああ、あれはリンゴ飴だ。甘くってすっぱいんだ」
「そうか。」目を伏せる舞。
「食べてみるか?あそこで売ってっから」
「いや、いい。あれは子供の食べるものだ」
「待ってろよ、買ってきてやるから」
なんだか普段の芝村と違う。こういうのはなんだっけ、妹ができたみたいな感じっていうのかな。
悪くないな。ふと微笑みながら、財布を出して買いに行こうとした時。
その団体はやってきた。あのマーチを野太い声が合唱している。
ウォードレスに身を包んだ、どこかのスカウト部隊の精鋭?達。
なぜか神輿を担いでパレードと言うよりは、練り歩くといった方が正しい。
そして神輿の上には、素子ラブと書かれたハッピを、羽織った、若宮がいた。
「若宮くん何やってるんですか?」
「いやあ、パレードに出ないかって言われてな。
この後、大食い選手権にも出るから、見にきてくれよ」
わははと笑いつつ、若宮を乗せた神輿をかつぎ、ザッザッと過ぎるスカウト集団、その姿は異様である。
その集団の割り込みの所為で、香織、速水、瀬戸口とは反対側の道に、舞だけが取り残されてしまう。
人ごみの中、ポニーテールを揺らしながら、こちらへ向かおうとする。
小柄な体が見え隠れしている。3人はちょっとハラハラしつつ舞を待つ。
と、その時だった。またも割り込みがかかったのは。
「フフフ、私を捕まえてごらんなさ〜い♪」
白くて。くねくねとしたとした長身の道化師が華麗に舞い降りた。
何のことはない、露店の屋根から飛び降りてきたのだが。そこへ女子の集団が物騒なものを持って現れる。
「ミサイル部前へ!」
「弓道部用意!」香織はどきりとした。
岩田がいるって事はあいつも…。
観客達は何かの余興かと、道をまたも左右にあける。
「フフフ、まるでモーゼの十戒のようだ!スバラシイスバラシイイ!」
その人ごみに押され、舞は更に3人と離れてしまう。
こちらから近づこうにも近づけない。
そこへもうひとつ、今度は丸い影が現れる。
「中村くん!」
「お、皆来てたと?急いでんで話はあとでよかとね?」
そこではじめて香織がうわずった声を発した。
「おおお、おい、中村!…くん、約束はおおお覚えてるんだろうな?」
ひょいひょいと弓をよけながら、中村は、にかっと笑う。
「3時だったと?忘れるわけなかとよ、香織、またあとでたい!」
「お、おう忘れてなきゃいんだよ」
二人のやり取りに目を丸くする瀬戸口。
「いつの間に…」
「最近だよ、知らなかった?」
「フフフ、オープン・ザ・ワールドオオ♪世界がはじまるその時から〜♪
さあ、逃げますよ?バトラー」
「ふんならがまだすばーい」煙幕手榴弾を投げつけ、その場の視界が遮られる。
その爆風に舞が巻き込まれる。
「…っ!」
「芝村!」とっさに速水は舞の元へダッシュした。
日ごろの訓練か、火事場のバカ力か、わからないがその速さは尋常ではなかった。
地面に叩きつけられそうになる舞を抱きかかえー、二人とも飛ばされ、煙の中に消えた。
後に残されたのは、観客と、呆然とたたずむ、瀬戸口と香織だった。
「姫さんと速水、大丈夫かな。探しに行くか」
「ああ大丈夫だろ、速水がいるんだから。大体そんなにやわじゃーよ、あいつら」
それに、と左腕を示し。
「多目的結晶だってあるんだし。おめえ、テレパスセル持ってねーの?」
「あいにく、色男はそんなもの必要なくてね」
「ふーん、あっそ。これで、速水にリード奪われたんじゃねーの?」
「お嬢さんこそ、中村とくっつくとは思わなかったよ。速水の事が、好きなんじゃなかったのか?」
香織は頬を赤らめて言う。
「そりゃそういう時期もあったけどよ。ずっと傍にいてくれたんだよ。ダチの命日の時とかも…」
まあな、中村はあれで結構いい男だからな。あの性癖をのぞけば。
「ソックス好きでもか?」からかってみる。こういうとこ姫さんと似てるな。
「あれは、あいつの唯一の欠点だ、それだけだろ。俺は別に…あっ!」
味のれん出張屋台の影から手招きしている、中村に気付き、香織は照れたような笑顔を向ける。
「わりぃ!ちと早いけど、俺抜ける!よろしく言っといてくれ!」
走り出していってしまう香織を見て苦笑する。
「さてと、姫さんと速水を探しに行くか!」
伸びを一つして、高い身長を生かして周りを見渡すと。
「瀬戸口くーん」と黄色い声が集まる。「おいおい。」
速水に限って、そう大胆なことはできんとは思うが、一抹の不安もある。
早いとこ探しに行かせてくれ。女の子に囲まれながら、瀬戸口は小さく溜め息をついた。
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